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「この者は腹を空かせておってな。おぬしの苺が欲しいそうじゃ」
青年もまた人の良さそうな笑顔で笑う。
「君が人間だったらなあ。曲と引き換えにその苺を貰うんだけど」
苦境でもユーモアを忘れない青年らしい。ロッテがひらり、と男の前に降りて、男が何気なく伸ばした指先に苺を乗せながら言った。
『苺をあげたら1曲弾いてくれるのね?』
いきなり喋りだした小鳥を見て、二人は目を見開く。
「なんじゃ、おぬしは物の怪の類か」
『少し違うわ。この森をよく知ってるただの親切な鳥よ。お姫様もお腹すいてるんでしょ?ほら、分け合うといいんじゃないかしら』
姫君が吟遊詩人に聞いた。
「………大陸の鳥どもは、皆こうして言葉を喋るのか」
「いや、僕も初めて出会ったよ。確かに、このあたりは騎士と魔法の国だけど……」
吟遊詩人も目を丸くしたまま姫君に返事を返す。
『そうよ。ここはカールベルク。騎士と魔法使いの住まうちいさな国。この森の木々達によると、もうすぐここにも雨が降るそうよ。雨宿りにぴったりの場所が近くにあるけれど、よければ案内するわ』
吟遊詩人がそっと苺を口にし、満足そうにもう一粒を姫君に渡す。
「ごらん、姫、こんなに美味しい苺は食べたことがないよ」
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