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一心同体のように過ごしていた近習のダリーズ卿の本当の性別を、この盲目の王は知っているのだろうか。だがそれをここで聞くのも野暮なことだ。すると、そんな心を見透かしたのか、王が問うた。
「我が近習の瞳の色は何色をしている?」
「菫色ですが」
「菫か。砂漠には咲かぬ花か」
ミーンフィールド卿が、思わず返事を返す。
「……………いいえ。私は砂漠に菫が咲くのを見ております」
何故そんな言葉が自分の口から出てきたのだろう。自分でもまるでわからなかったが、王はその言葉をゆっくりと吟味するように、見えない瞳で自分の瞳を凝視する。そして言った。
「生まれつき目が見えぬ故に、帝国の王位には就けず、このような砂漠に放り出された。20年も昔のことだがな。……だが、余には目が見えぬゆえに『見えないはずのものが見える』ことがある。この国の王、我が弟が恐れるのも当然のこと」
天幕の椅子に腰掛けたまま、白い杖をミーンフィールド卿の肩に乗せる。
「正直でお人好しの緑の騎士よ。おぬしはここで散るさだめではないな。だが覚えておくように。……刻んだ縁とは、切れるものではない。おぬしの顔に刻まれた傷のように。誰がおぬしの顔に縁を刻んだか、決して忘れぬように」
そして、杖を降ろして地面を三回叩く。ダリーズ卿を呼ぶ時の合図である。
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