【外伝】砂漠の菫の話

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「………ファラハード。否、本当は、砂漠の女の持つ平凡な名のひとつでも持っているのだろう。我が菫よ」  ぎょっとしたダリーズ卿が自分の方をきっと睨む。ミーンフィールド卿は静かに首を横に振ってやった。 「何故、それを」 「おぬしの目は菫と聞いた。余に墓はいらぬが、花一輪携えて冥土を歩くのは、この何もない砂漠の散歩よりはよほど愉しかろう。前におぬしが願い出たように、この余と共に何処までも逝くことを許す。準備を」 「有難き……ああ、有難き幸せであります、陛下」  ダリーズ卿が、プロポーズを受けた女性のように顔を紅潮させ、唇から喜びの言葉を漏らす。  帝国と砂漠の民との戦。砂漠の民らも大勢力相手に予想よりははるかに長く戦った。それにしても、砂漠の女性というのは何と不可思議な存在なのだろう。騎士として、それを止めるべきなのか否かを考える。しかし、顔を紅潮させ、迫り来る死の足音よりも軽やかに死出の支度をはじめたダリーズ卿を見て、開きかけたはずの口は自然に閉じていく。  ゴードン・カントス・ミーンフィールド。23歳。後の生涯の相棒『鳥の魔法使い』と出会い、再度遍歴の旅に出る、数年前の出来事だった。
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