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不思議な鳥が差し出した苺を口にした姫君が言った。
「懐かしい味じゃ」
ひらり、と舞い上がった小鳥に促されるように、二人は歩き出した。
煉瓦造りの小さな館の前に、緑の外套を纏った騎士が静かに佇んでいる。
「おかえり、ロッテ。客人は」
『お連れしたわ。あなたの苺をとても褒めていてよ?』
「今年は天候にも恵まれたのでな」
顔に縦横に走る大きな十字の傷と、いかにも厳しい口髭。黙って立っていると少しばかりの威圧感がある男が差し出した指に、怖がる様子もなく白い小鳥が舞い降りる。男が振り返って言った。
「遠い国からようこそ我らの森へ」
吟遊詩人が目を丸くし、足を止めて言った。
「あなたの可愛いご友人に美味しい苺を頂きまして」
「そちらのご婦人は高貴な方とお見受けするが」
「よんどころない事情がありまして」
そんな吟遊詩人の肩に、ぽつりと雨粒が落ちる。森に雨の降る直前の湿り気の多い香りが立ち昇り、静かに雨が降り出した。
「………吟遊詩人や貴婦人に相応しいもてなしはできないが、それで良ければ休んでいかれよ。貴殿らには今、食事と休息が必要に見える」
一瞬躊躇する二人を見て、ロッテが言った。
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