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『雨はしばらくやまないわ。今ちょうどこの館のテーブルには、いい感じに焼きあがったばかりのパンと、庭で採れたばかりの新鮮な籠一杯の果実、搾りたての山羊のミルク、それとこないだお城から送られてきたちょっと美味しいワインがあるのだけど………』
ミーンフィールド卿が付け加えた。
「このような国境沿いの森に一人で住まう顔の怖い謎の男を怪しむのは、旅人ならば普通であり、美しい連れがいるなら尚更のこと。しかしながらお二方共ご安心なされよ。この世で私が『レディ』と呼ぶのはここにいるロッテのみでな」
ユーモアなのか本気なのかどちらとも取れない口ぶりで、あくまでも真顔で言う騎士の指の上で、真っ白い小鳥が真っ赤になっている。そんな小鳥に吟遊詩人が囁いた。
「長い間世界中を旅してきたけれど、君ほどに立派な『止まり木』を持った小鳥と出会ったのは初めてだよ。流石は森の姫君、といったところかな」
その様子を見た姫がころころと笑う。
「うむ、そなたはまこと、れっきとした姫のようじゃ。物の怪の類などと呼んでしまったことを、詫びねばならぬ」
『そ、そそそ、そんな、あなたみたいに素敵なお姫様にお姫様って呼ばれると、どうしましょ、照れちゃうわ………』
この姫君の屈託のない笑い声を聞いたのは何時ぶりだったろう。吟遊詩人の青年が、肩の力をふっと抜いて、優雅な礼をしてみせる。
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