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城の工房で、きちんと自分の手や体格に合った形に修理された剣を握って、テオドールが言った。
「ありがとうございます」
「なに、これから忙しくなるじゃろうて、ちょうどよかった」
「………龍、ですか」
「わしもおまえさんの祖父も、頭は固いが勘所は鈍っておらんのでな。ミーンフィールド卿、あれはつまり『緑の魔法使い』の助言。騎士として生まれたものは、魔法使いの助言をないがしろにしてはならぬのだよ。もちろん、騎士の近習である、おまえさんもな」
どこか遠い国のおとぎ話の生き物の話を真面目に聞かされているような違和感、それと同じくらい、なんとも得体のしれない何かを前にしている気持ちもまた拭えない。
「……僕は、どうすればいいんでしょう」
思わずこぼすように呟いたテオドールに、ローエンヘルム卿がパイプを片手に持ったまま言った。
「師匠が、教えてくれるだろう。だが、あの男は聡いが、一人で生きる時間が長くなってきている。それは良いことであり、そうでないことも、時にはある。ティーゼルノットも、気にかけておったからな。だから、そうじゃなあ。お前さんにも、やるべきことがある」
「やるべきこと………」
「よく学び、そして、よく共に居てやりなさい。それだけで良いよ」
「………はい」
おそらくはひとりでも生きていける男の傍らに居ろ、それだけでいい、と諭されるのは何とも不思議な気分である。
「あまり、お役には立てないと思いますが……」
城の工房でローエンヘルム卿が微笑んだ。
「否、そんなことはなかろうて。……テオドール、人は誰にも何かしらの価値があるが、お前さんの価値を見つけだしたのはあの男になるのだろう。剣を持つ手、剣以外を持つ手。どちらにも。だから、お前さんも、信じてやりなさい。魔法使いであり騎士である、類い稀な師をな」
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