第6話 揺れる大地

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 政務の合間に入江姫の部屋で昼食を取りに来るようになった女王陛下の後ろから、臨月らしく大きなお腹を抱えた女性が入ってくる。 「へえ、何だか雰囲気の良い部屋だねえ。すごく落ち着くよ」 「そうでしょう。あなたにも、私の城一番の貴婦人を紹介しておきたくて。入江姫にも、私の腹心の部下で、大親友を紹介したかったの」  ベルモンテが少し後ろに下がり、そっと合図を送ってから御簾の代わりのカーテンを上げる。 「遠い島からようこそ、カールベルクへ。私はこの国の第3騎士アンジェリカ。人呼んで女王陛下の剣、といいたいところだけれど、今は少しお休み中なんだ。入江姫、お話は聞いたよ。色々苦労したと思うけど、ここで気がゆくまでゆっくり休んでいきな」  フランクな口調の、よく日に焼けた肌の美しい金髪の女騎士が、大きく膨らんだお腹をさすりながら陽気に笑う。 「第3騎士ということは、あの橘中将よりもおぬしは強いのか」  入江姫が目を丸くする。アンジェリカが笑う。 「もちろん。喧嘩仲間みたいなもんさ。でも、ゴードンとファルコをまとめてぶん殴れるのはこの国でも私だけだから、何かあったらすぐに言うんだよ」 「そんなことを言うから、旦那様のオルフェーブルがいつも苦労しているのよ?」  入江姫の隣に腰を下ろし、侍女が持ってきた軽めの昼食を膝の上に置いて、女王陛下が笑う。 「勇ましき女大将殿、か。この国には我には想像もしていなかった者達が本当に数多居るようじゃ。大将殿、もうすぐ御子が産まれるようじゃが……」 「私はまあ頑丈に出来てるからね。今日は天気も良かったし、散歩がてら城に来たんだ。お姫様にも会ってみたかったしね!騎士たるもの、美しい貴婦人には礼を尽くさなきゃ。今はこのお腹のせいでお辞儀だってできないけど」 「否、国一番の大将殿がこうして来てくれるとは、光栄の至りじゃ」 「はは!ありがとう。そんなかしこまらなくたっていいよ。さて、じゃあ、どうしよっかな……お姫様と吟遊詩人が喜びそうな、何か面白い話でもしていかなきゃね。うちの旦那の話でもする?ほかの国からやってきて、今じゃこの国の4番目の騎士だ。今日はちょっとゴードン、そう、ミーンフィールド卿のところに行かせたんだけどね」 「あなたとオルフェーブルの話は何度聞いても気持ちがいいわ。是非、聞かせてあげて」  国一番の騎士なのに庶民的な喋り方が心地よい。ロビンのそれにもよく似ている。 「ありがとう。そう……うちの夫のオルフェーブルだけどね、隣のアルティス国から、この国の騎士になりに来たんだ。特技は算術。ちっとも騎士らしくないだろ?それで、私は捨て子だったんだ。それを拾って育ててくれたのが、この国の法務官だったジャコモ卿でね……」
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