第6話 揺れる大地

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「そうそう。僕が書類を出した時に、ジャコモ卿は目を丸くした。『アルティス王家に連なる名家の青年が、このような小国に何用かな?』と。僕は包み隠さず事情を話した。すると、卿は言ったのさ。『つまり貴殿には算術の心得がある、と。複式の算術も、土地の利益に合わせた計算も、お手の物だということかね?』……気が付いたら法務官の館に呼ばれていてね。御年90歳だったジャコモ卿に熱く言われたのさ。『この新しい国の為に力を貸して欲しい』」  オルフェーヴル卿が、胸にかけている小さなペンダントを見せる。意志の強そうな瞳が印象的な老人の横顔が彫られている。 「『でも僕は騎士になりたい』そう言ったらジャコモ卿は呵々と笑ったよ。『わしの愛娘は騎士で魔法使いじゃよ。そういえば、今年は何故か城下町の古書店の店主からも騎士団入団の申請があって、ちょっとした騒ぎになっておってな』」  テオドールが、カールベルクの古書店で出会った腰に剣を佩いた中肉中背の人の好さそうな店主を思い出す。たっぷりと色んな貴婦人の刺繍のサンプラーを『出世払い』ということで、無料で譲ってもらったことも。 「ラムダさんですよね。僕、あのお店には「出世払い」のつけがあるんです」 「はは、じゃあもっと頑張らなきゃね。僕もあそこには色んな算術書を買いに行ったけど、だいぶ安くしてもらったものだよ」
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