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突然の揺れに、噴き出すように棚から本が溢れ出る、気が付くと、倒れかかってきた棚と棚同士に運良く出来た狭いスペースで本に埋もれながら気絶していたらしい。立っていた場所が悪かったら押し潰されていただろう。カールベルクの古書店の店長が、崩れ落ちた本の山から這い出して大きく肺から息を吐き出し、奥へ声を投げる。
「デヴィッド、フィンガル、無事か」
たまたま先日雇い入れたばかりの、古書店の店員達である。
「無事です親方」
「昼時でよかったですよ。巻き込まれたお客様もいない」
同じように二人が散々たる有様の店の床から這い出してくる。
「生きてるだけで儲けもんです。速やかに片付けますぜ」
「……二人とも、店を頼むぞ。自分はこれでも騎士だからな。城へ行く」
99番目の騎士が、少し歪んだドアを力いっぱい開ける。城の方から、鐘の音が絶え間なく聞こえる。騎士団招集の合図である。
「昼時か。くれぐれも火事に巻き込まれないことだけを考えてくれ。ドアが壊れているから雨にも注意だ。それと、もしもでっかい地図が出せたらファルコの鳥に渡しておいてくれ。いくら何でもこんなでかい地震は前代未聞だ。多分すぐに御入り用になるだろう。城下のでも街道のでも世界地図でもとにかくなんでもいい、今から優先的にありったけここから掘り出しておくんだ。片付けはその後でもいい。城からの依頼は最優先で。こんな時だ、勿論、領収書はなくていい」
「了解、親方、いや、騎士殿!」
「騎士稼業、頑張ってくださいよ。こういう時、なんて言えばいいんだったかな……」
「ああ、そうだ、『御武運を!』ってやつだ! 一度は言ってみたかったんだよなこれ!!」
古書店の店長が思わず笑いだす。そして、息を吐くと、腰の剣を撫でて、城からの鐘の音に耳を傾けながら少し背筋を伸ばし、言った。
「よしお前達、いや、『我が頼もしき従者達』よ、今月の給金はたっぷりはずんでやるから後は任せたぞ。じゃあ行って来る!」
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