第1章

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 優希が不思議に思うのも無理はない。毎日、 通学で通っている公園。今まで、ブランコの近くには花が咲く気配すら見られなかったので、いつも素通りしていた。突然、綺麗な花が視野に飛び込んできたのだ。花弁の色は水色。朝顔に近い形をしているが、今まで見たことがない形であり、茎の長さは約五センチ 程であるだろうか。薄緑色の茎は、花弁の色を上手く引き立てているように見えた。花に興味が無くとも、足を止め、見ずにはいられない。そのような錯覚に陥るほどであった。  優希はカバンにいつも入れているデジカメを取り出した。初めは正面から、次は斜め上からと角度を変えて、何度もシャッターのボタンを押す。  「講義終わったら、ブログに載せよう」  デジカメで撮った、名も知らない花の写真を再生ボタンを押して一枚一枚確認する。写真の中でも、その花は輝きを放っているかのように見えた。ふと、違和感に気付く。撮った写真の端には、ブランコが映っているが、 座る部分の青い板の部分に、黒いシミのような物が映っている。新しい時間の写真に切り替える度に、そのシミはまるで、生き物であるかのように形を形成していく。一枚目は丸い点。二枚目は大きな点。三枚目は青い板全体を覆う形.......ついには、ブランコの下の地面にまで、シミは浸食し、花のほうへと影が伸びるように向かっていた。最後の写真は、花にまでシミが覆いかぶさる形になっていた。 そこには、もう輝きは一切見られない。ただただ真っ黒なシミが映っているだけである。  「何これ?デジカメ壊れた?」  デジカメの再生画面から眼を放し、ブランコのほうを見つめる。何も異常は見られない。 座る部分の青い板はそのまま、板を吊るす為の錆びた鎖もいつも通りである。  「うーん?」  首を傾げながら、もうこの写真は消したほうがいいかと考え始める。こんなに気味の悪い写真であると、もちろんブログに載せることは出来ない。何より、自分自身気分が悪い。  「もう削除しよう」  諦めて、写真の削除ボタンを押す。通常であれば、削除してよいか確認の画面が表示されるが、何度押してもその画面すら表示されない。削除出来ない。  「え?何で?冗談でしょ」  ブランコのオレンジ色の柵に腰をかけながら、何度も削除ボタンを連打する。やはり消えない。  「もう何!?壊れたのかな」
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