第1章

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 まるで、キャンバスから滴り落ちるかのように、赤い絵の具が一面を埋め尽くしていた。 まだ乾ききっていない為か、夕日の光を受けて光沢を放っている。あまりの不気味さに思わず足が震えだした。本能が告げる。早くここから抜け出さないといけないと。  「ひっ......」  声にならない悲鳴を噛み殺し、駆け足で第一美術室へと戻り、共用廊下に繋がるスライド式のドアに手をかけるも、開かない。両手でドアの窪みを掴み、力の限り引っ張るも開かない。ここは四階に位置する為、窓から飛び降りることは不可能だ。ドアを引っ張り続けていると研二の耳に不穏な音が入り込む。  バン......バン......バン...... 眼をそむけようとした。聞こえてはいけない位置から音が聞こえるからだ。そう、グラウンドの見える窓からだ。初めは小さく、次第に大きな音量で第一美術室内に響き渡る。 まるで、誰かが窓を叩き付けているかのように。  「ああああ。あああああ!」  研二は窓のほうを見ないように、ドアを引っ張り続ける。音はどんどん大きくなる。もう両耳を塞がないといけない音量だ。音が大きすぎる為、眩暈まで伴ってきた。疲れと恐れと体力の限界からか、研二は意識を失い、 ドアのすぐ側に倒れこんだ。  肩を揺さぶられる感覚が脳に伝わり、うっすらと目を開けた。目の前に、クラス内で見慣れた担任の顔があった。顔色が真っ青である。  「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」  肩を何度も揺さぶられ、意識が徐々に鮮明になる。からからに乾いた喉から、声を絞り出す。  「大丈夫です.......急に閉じ込められて」  「閉じ込められた?それより、立てるか? どこか痛まないか?」  「痛みはないです」  研二の返事を聞いても、担任の顔色は悪いままだ。不思議に思い、尋ねる。  「どうしたんですか?」  「.......鏡を見てこい」  言われるがままに、担任に肩を貸してもらい、近くのトイレで鏡を見た。  研二の首をしめようとするかのように、真っ赤な手形がべったりとついていた。
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