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「おい、娘」
木から難なく飛び降りると、彼女はビクッと肩を揺らした。そんな彼女の目線に合わせるように屈んで瞳を覗き込んだ。
その時、思わず目を見開いてしまった。
「………光が見えない」
大抵の人には瞳の奥底に光が灯る。
妖の目にはない、その光が。
でも、ごく稀に目に光が奥底に灯らない人間がいる。それは、目の見えない人間。
「お前は、世界が見えないんだな」
どこを見てるのか分からない大きな瞳を見つめて、俺はそう言った。でも、多分世界すら見えてない彼女には俺が映ることなんて無いんだろう。
そう思って、"あほくさ"と呟いて立ち去ろうとしたとき、ぎゅっと服の袖を掴まれた。
「……あ、あの、……ごめんなさい、見えなくて」
弱々しく発された声に、俺は目を見開いた。
世界を見ることの出来ない彼女は、どうやら俺の声は聞こえるみたいだ。
思いもよらなかった彼女の行動に俺は、噴き出してしまう。
「はは、おかしな奴だなお前」
「………へ?」
「いーや、こっちの話だが」
急に笑い出した俺に彼女は意味が分からないようで困惑した表情を浮かべた。
そんな彼女が余計に俺の頬を緩ませる。
「………お前、名は何という、」
関心を彼女に向けると、
俺の質問に彼女はけたけたと笑い出した。
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