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日が経つにつれて、彼女は俺に色んな表情を見せてきた。それと同じくらいにこの世界のことをたくさん聞いてきた。花の色は、とか、今日の空の色は、とか。
彼女にとっての未知なるものは、
俺にとっては当たり前のことだった。
彼女はまだ目が見えてた小さい頃のクレヨンの色しか知らない。親の顔も兄妹の顔も何もかも覚えていないらしい。
そんな彼女は今日も隣で、俺が渡した木の棒で土をほじったり、線を引いたり遊んでいた。
「………毎回、送ってきてくれてんのは親か?」
「ううん、使用人さん。
私のお世話をする人だよ。」
ふと過ぎった、いつも見かける男は、親ではなく彼女の使用人。別にここまで来るわけでもなく、車の中で彼女のことをじっと待つらしい。
俺と出会ってから毎日来るせいか、使用人の男はたまに気になってこちらまで見に来るが、
俺の姿が映るはずもなく、怪訝そうな顔で車内に戻っていく。
「……ふふ、なんかおっかしーなあ」
「……ん?何がだ?」
「テンが私のこと聞いてくれたの初めてだもん。
名前以外で。毎回私から話してるからさ、」
"顔がおかしいくらい緩んじゃうの。"と
嬉しそうに笑うと棒を置いた。
そんな彼女に俺は小さく相槌を打つと、立ち上がって背伸びをした。
「……────千花、お前は本当に
この世界が見たいのか?」
目を細めて、笑いながら、
あんぐりと口を開けて言う彼女にそう問いかけた。
少し、意地悪い口調で。
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