第一章 見えない瞳

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日が経つにつれて、彼女は俺に色んな表情を見せてきた。それと同じくらいにこの世界のことをたくさん聞いてきた。花の色は、とか、今日の空の色は、とか。 彼女にとっての未知なるものは、 俺にとっては当たり前のことだった。 彼女はまだ目が見えてた小さい頃のクレヨンの色しか知らない。親の顔も兄妹の顔も何もかも覚えていないらしい。 そんな彼女は今日も隣で、俺が渡した木の棒で土をほじったり、線を引いたり遊んでいた。 「………毎回、送ってきてくれてんのは親か?」 「ううん、使用人さん。 私のお世話をする人だよ。」 ふと過ぎった、いつも見かける男は、親ではなく彼女の使用人。別にここまで来るわけでもなく、車の中で彼女のことをじっと待つらしい。 俺と出会ってから毎日来るせいか、使用人の男はたまに気になってこちらまで見に来るが、 俺の姿が映るはずもなく、怪訝そうな顔で車内に戻っていく。 「……ふふ、なんかおっかしーなあ」 「……ん?何がだ?」 「テンが私のこと聞いてくれたの初めてだもん。 名前以外で。毎回私から話してるからさ、」 "顔がおかしいくらい緩んじゃうの。"と 嬉しそうに笑うと棒を置いた。 そんな彼女に俺は小さく相槌を打つと、立ち上がって背伸びをした。 「……────千花、お前は本当に この世界が見たいのか?」 目を細めて、笑いながら、 あんぐりと口を開けて言う彼女にそう問いかけた。 少し、意地悪い口調で。
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