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 マグは機嫌を直すよりも先に固形ミールをひっつかみ、勢いよく包装を破ってかぶりついた。幼子のようにボロボロと食べカスをこぼす彼女はとても愛らしかった。顔を覆い隠す栗色の前髪の隙間から、リスみたいによく動く口元がちらちらと覗く。 「今度、レストランに行こうか。もう半年は行ってないし、久しぶりにさ」  マグは忙しなく動かしていた口を止め、恐る恐る顔を上げる。ほんの数秒前までへそを曲げていた自分とつじつまを合わせようと、喜びを抑え込んでいるのだ。 「ほんとに?」 「だって、僕らもいつ溶けてしまうか、わからないだろ。行けるうちに行っておかないと」  マグはやれやれという風にため息を漏らし、仕方ないなぁとかなんとか言いながら食事を再開した。口の端が持ち上がってしまっているのに、自分で気づいていないらしい。そもそもレストランだって溶けてなくなっているかもしれないけれど、そのことにも思い至っていないようだ。  彼女の無垢をこころゆくまで味わってから、僕は左腕のシリンジに目をやる。諦めと期待を込めてプランジャを押し、中に入った肌色の液体を流し込む。  必要な十単位に達した直後、僕の身体は抗議の声を上げた。こみ上げた吐き気に、思わず口元を手で覆う。生命の糧を得た僕を怒鳴りつけるように、心臓がやかましく騒ぐ。
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