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世界中の欲求、とりわけ食欲が姿を消し始めたのは、僕が生まれるより前の話。人々は活動という活動を鈍らせ、味もそっけもなく、ただ効率よく栄養を摂取できる固形ミールをちまちまと食べるようになり、やがてそれさえ疎みはじめると、今僕が「食べた」ような栄養剤を嫌々摂取しては呆けるばかりになってしまった。今時レストランなんかに足を運ぶのは、ごく一部のマゾヒストか、あるいはマグのような体質の持ち主以外にいない。
当然、経済は見る間に縮小し、停滞した。事態を憂えた国連は世界再構築機構を設立し、〈神様の胃袋〉を作り上げた。いつか取り返しのつかないところまでいってしまったら、一度世界を溶かして洗い流し、正しい形で作り直すための装置。世界全体の幸福量が閾値を下回った一週間前が、「取り返しのつかないところまでいってしまった」日だった。
確かに、こんな世界なら溶けてしまうべきなのかもしれない。上手く食事ができなかったこの瞬間だけは、そんな風に思う。
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