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「人類をビョーキから救うために、世界を丸ごと作り直そうってんだ。何が不満なんだろうな」
「新天地が出来上がっても、そこに『自分』がいないかもしれないことだよ」
「なんだ、お前もそのクチか?」
眉をひそめるレノに苛つきを覚えた。三年ぶりに会っても、レノはレノのままだ。こうして彼に見下されるのにだけは、ついに慣れないままだった。
「自信があるみたいだけど、君だってわからないじゃないか。あちら側へ自我を持っていけるのは、本当に限られた人間だけなんだぜ。僕も君も、仲良く誰かの一部になってるかもしれない」
再構築される世界に自我を持っていけるのは、より多くを幸せにしてやれる者だけだというのが世間における通説だった。幸福を最大化する形で世界を作り直すように、〈神様の胃袋〉は設計されているのだから。幸せの涸れ果てたこの時代でなお、いやこの時代だからこそ、開発者たちは功利主義を信奉していた。
つまり、僕みたいなのはもちろん、レノだってきっと、あちら側には行けない。正確には、自我を失った状態であちら側に辿り着き、世界の幸福を最大化する糧になる。
「あのな、どうだっていいんだよ、そんなことは」
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