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レノは左の袖をまくり上げ、腕を露わにする。シリンジがついていない。無理矢理引き剥がしたのか、ボロボロになった接続部が丸裸になっている。
「君、食事は?」
「やめたよ。どうせもうすぐ溶けちまうんだ。バカ真面目に摂るバカがどこにいる」
「でも、シリンジをちぎることないだろ。もし今餓死したら、新天地へ行ける可能性はゼロだ」
「だから、どうだっていいんだよ。新天地だの、幸福の最大化だの」
レノは遠くを見つめながら言う。顔中の筋肉がなくなったみたいなその表情にぎょっとすると同時に、懐かしい気持ちになった。
「おかしいのはあの暴徒どもの方だ。もうおしまいにしましょうってのが、世界中のブームだったじゃねぇか。なのに今さらジタバタして、みっともねぇ」
「……ブームに乗れない奴だって、それなりにいるさ」
そう反論すると、レノは死んだ顔のままこちらに目を向けた。
「さっきから聞いてりゃなんだ? もしかしてお前、まだあいつと一緒なのか 。よく飽きないな」
「言っただろ。気の迷いなんかじゃないって」
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