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眠り札
嫌、やめて……。
ベッドのうえで金縛りにあった美香の顔にムカデが這いよってきた。無数の足をうねらせながら口の割れ目に赤い頭を押し込んで行く。身体のなかに侵入した親ムカデは、むにゅむにゅと嫌な音を立てながら喉の奥に卵を産み付けた。美香の目のふちに涙がたまる。胃のなかで大量に孵化するムカデの映像が頭のなかに浮かんできた。次の瞬間、身体のなかで、無限増殖したムカデの群れが脳を食い破ると、美香の鼻や目玉から噴き出してきた。
「ゲホッ」
口のなかに胃酸を逆流させなながら美香は目を覚ました。枕から頭をあげると、窓を隠すピンク色のカーテンを見つめた。間違いなく自分の部屋だった。美香は目の下の酷いクマを隠すように、両手で顔をおおった。
美香はもう何日も続け、まともに眠れていなかった。眠るたびにムカデに襲われる夢を見るためだ。
「……私ってプレッシャーに弱いな」
美香は愚痴をこぼすと重い足取りで部屋を出て行った。
美香は可愛らしい顔に生まれた。性格はいたって穏やかで、父親は銀行の支店長をやっており、お金の苦労もなく、成績も優秀で、男の子にも良くモテた。
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