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もうすっかり雨は上がり、雲間からは太陽が顔を覗かせている。街の所々で水が滴っている。それに太陽が反射して、街は眩しい光に包まれていた。
傘を持っていなかったその青年は、庇の下で雨が上がるのを待っていた。傘の代わりにその手には1冊の本が携えられている。ちょうど庇に射し込んできた光を、青年は本で遮った。眩しそうに目を細める。まるで光は青年を祝福しているようだ。青年は前髪を揺らすと、一歩踏み出して庇から出た。歩き出した青年の身体全体を、暖かくなった空気が包みこんだ。青年は数歩あるいてから何かを思い出したかのように、庇に向けて振り返った。勿論そこには誰もいない。しかし青年は笑みをその顔に浮かべた。屈託のない、晴々とした笑顔だった。
青年は再び前を向くと、雨上がりの街に消えていった。
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