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しかし次第に好奇心が湧き出た。店の人間なら元々気になっていたし、雰囲気によれば今度入ってみたい。ネコ目当てならどんな人間が自分と同じことをしているのか。
地曳は狭い路地からそっと顔を出し、喫茶店の方を覗う。
彼女の目に映ったのはひとりの青年だ。着古した灰のパーカーをはおり、紺のリュックを背負っている。髪は茶色がかっているが、別段いじることもしていないであろう、普通の平凡な青年だった。
この時間に私服でいるということは、大学生だろうか。
「俺の身にもなれって」
青年は、そう呟きながら小さな灰色を持ち上げる。ネコが好きな人間がやりがちな口調にもならず、面倒くさそうに呆れた様子で淡々と話しかけている。
ネコは眠いのか、持ち上げられたまま小さく伸びをした。
なんとも思わないのかな? あんなに小さくて可愛いのに。
ネコ目当てだというのに落ち着いたトーンでいる青年の姿は、地曳の目には普通でないと映る。別の生き物ののよう――いや、人間で無いものと遭遇したような訝しむ目で彼女は青年を見た。
青年に持ち上げられたネコが小さく呻く。
「……ん?」
するとなにを思ったのか、青年はネコを天にかざすようにさらに高く持ち上げて下からのぞき込み、一際大きなため息をついた。片手を自由にするようにネコを腕に抱え直す。
「この怪我も、な」
青年の左の手のひらが、ネコの前脚を掴んだ。
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