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青年がスマートフォンの画面を何度かタップした。「ほら」それを地曳に向ける。LINEのトーク画面だった。グループ名は『Angelica』。グループ名と同じ名前のパシャパシャと広がる白い花のアイコンから、灰色の子猫の写真と『探してきて』というメッセージが表示されていた。
「頼まれてるんだ。アルバイトみたいなものだよ。ポンには家があるから」
「私も一緒に行く」
それは正義感からか、単なる興味からか。
いや、そんな単純なモノではないだろう。安堵、焦燥、嫌悪、恐怖……。その時地曳は、自身なかで渦巻く様々な感情を整理できないでいたのだから。
一方の青年は、困ったように小さくため息をついてから空を仰ぎ、横目でじっと見つめ続ける地曳を確認し、ポンと呼んだ灰のネコに視線を落として、なにやら少し思案してから頷いた。
「……しょうがない、か。いいよ」
困った顔で笑うと皮肉交じりに続ける。
「正義感は素晴らしいけれど、自分の身の危険には疎くない? ダイジョブ?」
地曳は自分の背後を確認した。喫茶店の看板に段差代わりに無造作に置かれたレンガ。
青年に視線を戻すと地曳も笑う。
「あなたをぶっ倒す方法なら、その気になればいくらでもあるから大丈夫」
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