84人が本棚に入れています
本棚に追加
#花屋とその店主
町側の駅を通り過ぎ、気がつけばサイクリングロードとなっている川沿いまで来ていた。
日はだいぶ傾き、風が冷たくなり始めている。
灰のネコは柔らかい花柄の布に包まれた状態で地曳の腕の中にいた。青年に自転車を押すかネコを抱えるかと問われ、迷わずネコを選んだためである。
因みに、抱くときにネコの前脚を確認したが、怪我はなかった。
青年はカゴに地曳の学生カバンを乗せ、自転車を押している。
お互いに特に話すこともなく終始無言。その沈黙が、地曳を冷静に引き戻していた。
なぜ自分はついて行くなどと言ってしまったのだろうか、と。
普通に考えれば、迷い猫を飼い主に頼まれて探すなんてよくあることだ。怪しいか否かなど、ネコのなつき具合とLINEを見れば十分である。
なのに無理矢理行くことを了承させた。やましいことがないなら良いだろうと、脅しのように。
しかし次第に、地曳は責任を転嫁し始める。
あの碧く淡い光を見てしまったから、どうもおかしいのだ、と。
そう、この青年が力を隠そうとしないから――「ここだよ」
彼女は青年の声に顔を上げる。
最初のコメントを投稿しよう!