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目の前にあったのは家だ。まあ、飼い猫を届けるのだから、家が無くては困るが。
それは、洋館風の小さな家だった。
まず地曳の目に映ったのは、西洋の古い街灯を模したような照明だ。等間隔に並んだそれが、家の敷地の入り口から玄関まで、庭の石畳の脇に並んでいる。その近くに大小様々な花のつぼみが見えた。鼻に届く香りからすると、ハーブも育てているらしい。レンガを模した壁には蔓が伸びているが、適度な長さで切られている。
日本ではないような、幻想的な不思議な空間。
見とれていると、青年の左手がぬっと現れた。
地曳がぎょっとしていれば、その意外にも皮の厚めな手の節くれた指は、敷地の入り口にある小さなボタンを押す。
碧く淡い光を思い出してしまった地曳だが、そのボタンがチャイムであることに気がつくと、表札に視線を移した。と、そこにはLINEのグループ名と同じ『Angelica』と書かれた看板がある。
「お店……?」
「そう、変な花屋」
そう短く答えると、家の内から開けられたドアに向かって青年は歩き出した。
「花屋でネコって平気なの?」ネコに有害な花は多い。
「外からしか入れない部屋があるし、ここでは飼ってない。近所にかかりつけの獣医もいるから問題なし。……いつものところにいましたよ」
「ありがとう結城」
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