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お世辞でも何でもなく、店で出てくるレベルの見た目に、地曳は生唾を飲み込んだ。
「……美味しそう」
「うまいよ」
思わず頬を緩めた地曳に、フォークとナイフを並べる結城が即答した。
「結城は飲み物、ワインにする?」
「自転車だしジュースですよ」
「あらつまらない。酔うと面白いのに」
「面白いって、ワインボトル1本空けさせられた時だけでしょ」
「成人のお祝いだったんだからいいじゃない。ああ」
なにを話そうとしたのか、地曳の存在にはっとし、自らの口を指先で塞いだ明日葉だったが、「……見られたからダイジョブですよ」ぼそりと呟いた結城の言葉に、全てを察したかのようににんまりと笑った。
「あら……そういうこと」深紅の口紅をひいた唇が、弧を描く。
玄関で顔を出した恐れのようなものが心臓をつつき、地曳は身をすくめた。だが気がつけば、その唇が、次になにを発するのかとまじまじと見つめてしまっている。
「酔わせたら、魔法があふれ出ちゃったの」
地曳の恐れに反して、その唇は愉しげに、碧い光が広がって部屋を龍が飛んだのだと、その時の様子を語った。
が、身構えていた上、未だ路地裏の喫茶店で見たものを受け入れることが出来ていない地曳が反応に困ったのは言うまでもない。
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