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「ま、そういう話はあとにして先ずは食べましょう。デザートもあるのよ」
そう言って明日葉が手を叩き、地曳にとっては異例尽くしのディナーは始まった。
しかし、異例尽くしといっても大したことではない。明日葉が今日あったことを話し、結城に振り、結城はそれに言葉は少ないものの答える。明日葉がからかい、結城が眉をひそめる。よくある家庭の夕食の光景といった感じだった。彼らは親子ではないようだが。
「そういえば黒羽は?」
「黒羽はまたどっか行ってますよ」
「こういう話好きそうなのにねえ」
友人宅にお邪魔したときに感じる、自宅とは違う温度の会話や音の溢れる、心地のいい疎外感を地曳が覚えるほどだった。
実際、結城は明日葉に全幅の信頼を置いているように地曳には見えた。まるで母親に対してのそれのような。
だが、話が広がれば、あまり触れたくない話にも及ぶ。
それは、明日葉が、結城と知り合った時期の話をした後のこと。
「結城とは古い友人の知り合いの紹介で知り合ってね。ちょっとした仕事を頼んでいるの。本当は本腰入れて欲しいんだけど」
「やりませんよ」
「この通りなのよ」
「仕事って?」
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