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夕飯を食べ終わると、高校生を制服のまま引き留めてはいけないとてきぱきと地曳を帰らせる支度が進んだ。
因みに、デザートは花を閉じ込めたゼリーで、「小洒落てるよなあ。インスタ映えまっしぐら」と結城が年寄りみたいなトーンで呟いていた。
結局、明日葉も結城も、地曳についてはなにも聞いてこなかった。
地曳は普通の、いや普通でない話を普通に話す様をただただ見ていただけ。
それだけなのに、魔法を見た瞬間より現実感が湧かないままである。食後の眠気も相まって、玄関に立っているはずの地曳の意識は、ふらふらとその辺を漂い、地に足がついていない。
「ここで知り合ったのもなにかの縁だわ。友人関係でも恋愛でも困ったことがあれば連絡してね」
「はい……」
しないだろうな。ぼんやりそう思いながら、彼女はいつの間にか握らされていた名刺を見る。
オリーブ色に花と凝ったデザインの明日葉に対し、店での口ぶりからすると無理矢理作らされたのだろうなと思うほど、バーコードだけの簡易的で白い名刺。
ど真ん中に結城ユウトとあった。
「まあ、力のことでも。吐き出すだけで楽になるわ」
地曳は明日葉を見つめた。
彼女を照らす庭の灯りがゆらゆらと揺れて見え、彼女の輪郭がぼやける。
「なにも知らないのに……なにがしたいんですか?」
思わずこぼれた声に、明日葉は微笑む。
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