3rd post : 床ではねる銀の水筒

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 机を囲んで輪になり、みんなが見ている中で、順番に水筒に手を置き、目をつぶって念を込め、少し離れた場所で手もとに来るように命じる。  ただそれだけの儀式を、一喜一憂しながら繰り返す。  儀式――そう儀式だ。この時期のこの手の遊びは、無意識に行われた、お互いの共有するノリが同質であるとかを確認し合う儀式だったのかもしれない。  ただ正直、漫画に触発された男子以外、全員真面目になどやっていなかった。  連日続く雨に校内を走り回るのにも飽き、特にやることもなく、なんとなく面白そうな話にのってみた。ただそれだけだったはずなのだから。  地曳だってそうだった。  年相応の恥じらいを覚えはじめていた地曳は、自分の順番が来たときには、ほんの少し、本当に少しだけその素振りを真似て終わらせようと思っていた。  ひとり、またひとりと動かせるわけなんてまるでなく、地曳の番が回ってきたのは、みんな飽き始めた頃。  さっさとやってしまおうと、地曳は水筒の前に立った。  目をつぶって水筒に触れ、離れてから手もとに来るように念じる。それから一歩離れて、手を伸ばした。みんながやったのと同じように。  結果、手もとには来なかった。  手を伸ばした瞬間に手のひらに感じた、なにかが歪むような感覚に怖くなり、手をかざすのを止めたからだ。     
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