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自分でもなにが起こったのか分からず混乱していたのだ。言いふらすわけがない。しかしその場に居た数人から話は広がった。クラスは全員、少々話が違うこともあったが他のクラスも一部が知る有名な話になった。本人も本人で否定をしたり愛想笑いで流すことを覚えていない時分、その対応がさらに話に拍車をかけ、あとは察すれば分かるだろう。
人間わりと、無垢な頃の方が残酷だ。
幸い好奇の目で見られたり、避けられるだけなのが救いだったが、しばらくは1人の日々が続いた。
そのうち学年が1つ上がり、クラスが変わった。
一部その話を引きずる子や、知らずに地曳に近づいた子に噂を吹き込む子も居たが、その話は段々と薄れていく。
彼女がすぐに隠し、人前でやってみせることをしなかったから。幼いながら、地曳はその場の反応で、『見せてはいけないもの』と判断したのである。
高学年になる頃には、その話を振られても“ネタばらし”が出来るようになっていた。
今は周囲もそのことをすっかり忘れて、「なぜだか一時期1人になっていた女の子」同級生でも地曳への認識はこうだろう。
いや、そんな一瞬1人の時期があったことなど、とうに誰もが忘れている。
「にしても怖いよねー」
「ん?」
「通り魔」
声に地曳は過去から呼び戻された。
時は高校の昼休み。
声の主は、他クラスから遊びに来た井上真希だ。真希は地曳の前の席の椅子に座り、スマートフォンを弄っている。昨日髪を切り、肩ほどになった彼女の髪が、人差し指をくるくると回して遊ぶ彼女の癖にさっそく巻き込まれていた。
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