3rd post : 床ではねる銀の水筒

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「地曳矢恵」  下校途中の小さな公園。  振り向いて目についたのは、黒地を飛ぶ無数の鳥。  地曳を呼び止めた男は、ポケットに手を突っ込み、気怠そうに立っていた。  無数の鳥の正体は、下手をすれば昔の任侠映画のチンピラになりかけない、派手な柄のシャツ。  絶妙なバランスでその服は(・・)男をチンピラにはしていない。だが、立ち姿勢といい、とにかく柄が悪く、一周回ってやはり見た目はチンピラだ。  男は、ゆったりとした足取りで地曳に近づいてきた。  軽くもなければ、いやな重さもない。日向にぽっかり出来た影でなければ、夜闇でもない。得体の知れない、黒いなにかがそこにいる。  地曳はそんな不思議な感覚を抱いた。  それに、柄の悪いだけの若者にはない静けさが男にはある。  地曳は睨むように見上げる。  目につくのは、にやけた口と重そうな目蓋に、気怠さを強調するような垂れた目。瞳はカラーコンタクトレンズでもしているのか澄んだ赤で、射貫くような鋭さがあった。  おまけに背が高く体格もよいため、近づかれるとかなり威圧感がある。  もちろん、地曳にこんな知り合いはいない。 「……なんですか」  フルネームで呼ばれたこともあり、地曳の警戒心はMAXである。     
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