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「地曳矢恵」
下校途中の小さな公園。
振り向いて目についたのは、黒地を飛ぶ無数の鳥。
地曳を呼び止めた男は、ポケットに手を突っ込み、気怠そうに立っていた。
無数の鳥の正体は、下手をすれば昔の任侠映画のチンピラになりかけない、派手な柄のシャツ。
絶妙なバランスでその服は男をチンピラにはしていない。だが、立ち姿勢といい、とにかく柄が悪く、一周回ってやはり見た目はチンピラだ。
男は、ゆったりとした足取りで地曳に近づいてきた。
軽くもなければ、いやな重さもない。日向にぽっかり出来た影でなければ、夜闇でもない。得体の知れない、黒いなにかがそこにいる。
地曳はそんな不思議な感覚を抱いた。
それに、柄の悪いだけの若者にはない静けさが男にはある。
地曳は睨むように見上げる。
目につくのは、にやけた口と重そうな目蓋に、気怠さを強調するような垂れた目。瞳はカラーコンタクトレンズでもしているのか澄んだ赤で、射貫くような鋭さがあった。
おまけに背が高く体格もよいため、近づかれるとかなり威圧感がある。
もちろん、地曳にこんな知り合いはいない。
「……なんですか」
フルネームで呼ばれたこともあり、地曳の警戒心はMAXである。
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