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危うく空気に飲まれて流されるところだ。これ以上、関わる必要はないのだから、と。
「そっすか」
結城は、なぜか面白いものでも見ているような顔を地曳に向けている。
「さっきは、いきなり怒鳴ってごめんなさい」
怒りに来たというのに、なんの話を聞いているのだ。そう思いながらカモミールティーを口にする。
「……ん?」と、足元でモゾりと何かが動いた。「あ、ポン」
灰色のネコが、するりと地曳の足にすり寄っていた。
「……なんでお前がここに居る?」
椅子から立ち上がった結城がポンを持ち上げる。
「どっから入ったんだ。カモミールか……? 」
呟きながら慣れたように、リビングのドアに手を伸ばした。
「そういえば夕飯は? 明日葉さんのグラタンがあるけど……って2人じゃ気まずいか」
「気にしなくても」
用も済んだし帰りたい。というのが本音である。
「じゃ、ちょうど3皿あるし、持って帰る? 自家製のパンもあるんだ」
地曳の声が聞こえなかったかのように、結城が提案する。
この前食べた鶏肉の香草焼きを思い出し、急に空腹に襲われた。今日も夕飯は各自である。
「……怒られない?」
「ダイジョブでしょ。矢恵ちゃん明日葉さんのお気に入りだから」
「……持って帰る」
「準備するよ。待ってて」
結城は微笑み、リビングから出て行った。
地曳は床のカモミールを見、よく見てなかった店を眺める。
ハーバリウムにドライフラワー、造花、置物、工作用の型紙、蝋燭、レシピ本……なんでも置いてある、変な花屋。
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