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因みにオレンジケーキの見た目は綺麗だが、味は普通だ。1番に目についた、甘いベリークリームの上にラズベリーやらブルーベリーやらがたっぷり乗った、ベリーベリータルトにするべきだったかもしれない。
そんなことを思いながら、ケーキを口に運んだ。
「えー、いいなあ。ちょっと見せてください」
が、口に入る寸前だったオレンジケーキはフォークから落ちた。一瞬、地曳が驚きに固まったからだ。彼女はフォークを置き、周囲を見渡す。
地曳に動きを止めさせたのは、寒気だった。しかし、冷房が効きすぎているわけではない。冷えたわけではなく、なにかが通ったのだ。左腕をかすめて、地曳の隣をめがけて。
地曳は隣に座る真希に目をやる。
「いいよー」
真希は特に何も感じていないらしい。見たいと言った蔵田にスマートフォンを渡している。
「えーいいなあ。……あ、真希さん。誰かから連絡来たみたいですよ。出たほうがいいんじゃないですか?」
気のせいだったか、と視線をケーキに戻しかけたその時、また、通った。
今度は“なにか”の来た方向が分かった。蔵田だ。
地曳が顔を上げると、目の前で、蔵田が真希にスマートフォンを返していた。
ただ、連絡が来たと言うのに、スマートフォンの画面は暗い。
「……ああ、うん。連絡来た。ちょっと外すね」
それなのに、なんの着信もないスマートフォンを片手に、真希は席を立つ。
「いってらっしゃーい」
真希の姿が店の出入り口の向こうへ消えるのを見送り、地曳は恐る恐る、真希に手を振る蔵田に目を向ける。
なにが起こったのか、わからなかった。
「チョコミントアイススペシャルです」
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