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「初めから興味のなさそうだったよね? パスタにもケーキにも、映画にも」
蔵田は食後にと置かれたミントティーのポットを引きよせ、片手でカップに注ぐ。
黄緑がかった茶の液体が、乱暴に空中に投げ出された。液体は周囲に散りながらも、落ちた先のカップをゆらゆら満たしていく。
「僕はちやほやされるのが好きなんだ。だからそのための努力は惜しまない。地曳さんは違うでしょ? 嫌なことのために自分を殺して楽しい? 本当はパスタよりニンニクもりもりのステーキが食べたかったし、その恋愛映画よりアクション映画のほうが好きでしょ?」
真希と話していた時よりも、ぶっきらぼうに蔵田は話す。
冷めたというより、声のトーンもテンションも礼儀レベルも、なにもかもを意図的に1段階下げられた気がした。子どもに気前よく風船を配っていたキャラクターに、望んでも居ないのに目の前で着ぐるみを脱がれた気分だ。
「僕にはわからないなあ。いっつも言いたくなるんだよ、友達にも。でも言わないのさ、僕は僕をちやほやしてくれる環境が欲しいだけからね」
蔵田はポットを置き、手の甲に顎をのせて口角を上げる。
「“自然”とか“普通”とか、そんなの考えずに飛び越えればいいのに」
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