84人が本棚に入れています
本棚に追加
なにもしなくても分かって楽だなあ。笑う蔵田を前に、地曳の感情は定まらない。
飲み込んだ言葉を見ていたかのように“それ”と指された焦りと衝撃。彼の言葉にいつの間にか苛立ち、まんまとそれを見透かされた羞恥心。初対面で“楽だ”と言われてしまった敗北感。全てが一気に押し寄せ続ける。
「あー、面白い」
ひとしきり笑って、周囲の視線を集めた蔵田は、満足したのか小さく息を吐いてから、テーブルに手をついて身を乗り出した。彼は、びくりと身構えた地曳の瞳が、彼の顔を捉えるのを確認するような間を取り、とっておきの秘密を口にする子供の高揚をその顔に浮かべる。
「僕ね、今日は実物を見に来たんだよ。『百聞は一見に如かず』って言うでしょ?」
「実物を、見る……?」
「うん。トクベツな力を持ってる人が何を考えているのか、見に来たんだ」
初めての当たりだったなあ。蔵田は地曳を見て目を細め、楽しそうにそう続けた。
地曳は、未だ波立つカップの中のミントティーに視線を逃がした。
蔵田が見ているのは分かったが、顔を上げられない。
“力を持ってる人”それが誰を指すのか、蔵田の言う“力”がどんな力を指すのか、蔵田の表情が全てを物語っていたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!