4th post : 1口も飲まれていないミントティー

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 予備校の看板の陰から、ぬっと黒い影が出てくる。  黒いジャンパーにぶかっとした黒いパンツと暑苦しい、大柄の男だった。それが右手をポケットに突っ込んで立っている。  地曳は目の前に現れたその男を、人の波と同じように避けようと進路を変えた。が、男が立つ場所を変えたため、彼女の進路は塞がれる。  彼女は思わず足を止める。  譲り合いなら普通ここで、目線が合い、お互いに「すみません」と言うか会釈をするかしてすれ違うだろう。  しかし、彼女が顔を見ても男の顔は帽子で隠れて見えない。  もう一度行こうとするが、やはり男もついてくる。  地曳は眉をひそめた。 「あの」  たまらず声をかけると、ようやく男が地曳に顔を向けた。  が、目線は合わなかった。  焦点が合っていないのだ。  こちらを見ているのに見ていない。  なにかがおかしいと、地曳は眉を顰める。  男のポケットに突っ込んでいた右手がもぞりと動いた。その手が握る物を視界の隅で捉え、地曳の心臓は、大きく脈打った。  ――慌てなくても僕はそれ(・・)じゃないよ。  なぜか響いた蔵田の声にハッとし、咄嗟に後ろに身を引いた。  目の前をぎらりと何かが通り過ぎる。  鼓動は速度を増し、呼吸は乱れた。     
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