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地曳の声を遮りわざわざ宣言すると、結城は10メートルほど先の遠すぎるその場所で、地面を強く蹴った。
結城の身体が、宙に浮く。
「……! ん!」
気が付いた地曳は、なるべく高く手を上げる。
指の先あたりに集中し、しばらくしてから一気に脱力する。と、頭上を結城が人間の脚力では考えられないほどの勢いで通り過ぎ、男の懐に突っ込んだ。
思った以上のスピードに一瞬、結城の体を心配したが――「黒羽! 矢恵ちゃん止めとけ!」
流れるように受け身をとった結城が立ち上がり、起き上がる男を見据えたまま叫んだ。
低く構えた彼の手にはどこから持ってきたのか、ナイフより少し短い程度の銀の棒。一度でも衝撃が加えられれば折れてしまいそうな、弱々しいものだ。
「ちょっ」「心配すんな念力JK」
身を乗り出したところで肩を掴まれる。その手を振り払うように体をひねり、咎める目を向ければ、いつの間にか背後に居た黒羽が「こえっ」と両手を挙げて振ってみせた。「“護れ”じゃなくて“飛び出さないように止めておけ”って言われんのすげェな」
「ちょっと」
「おっと、行ってどうする。これ以上この往来で使う気かァ?」
「でもあの人、魔法使えるだけでそれ以外はただの普通のヴッ」
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