84人が本棚に入れています
本棚に追加
ネコの消えた先にあるのは、なんの変哲も無い路地裏だ。入ってすぐ右に見える、背の低いビルとビルの間を通る狭い道を抜けてから左へ行くと、隠れ家的な小さな喫茶店に突き当たる。
地曳の目当てはそこだった。
その喫茶店の店先に気持ち程度に置かれた小さな滝の前、特に誰かが出てきてエサをやるといった様子もないというのに、春先から夏にかけては特に、ネコたちが気持ちよさそうに寛ぐ場所がある。そこでネコと戯れて帰る。それが地曳の楽しみなのである。
灰のネコに続いて地曳は路地へと入った。低いビルとビルの間を行く小さな灰のネコを追いながら、彼女は小さく息を吸う。と、澄んだ空気がすっと頭から抜けていく。
地曳は、ネコの気持ちも分かるような気がしていた。交通量の多い国道からさほど離れていない場所にも関わらず、この場所はいつも静かで、別の時が流れているような、そんな心地になるのだ。
小さな灰のネコが狭い路地を抜け、喫茶店のある左へ消える。地曳も狭い路地を抜けようと歩を進めた。
「やっぱりまたここか」
が、聞こえてきた声に彼女の足は止まる。どうやら先客がいたらしい。
秘密の場所が自分だけのモノでなくなってしまった気分に、地曳は肩を落とした。そもそも店の敷地であって彼女のモノではないのだが、今まで喫茶店の客にも店の人間にでさえ遭遇したことがないのだから仕方がない。
最初のコメントを投稿しよう!