赤い約束

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程良くエアコンの効いた車の中、隣に座るおやじ様に尋ねてみる。 「ねえ、お父様。今日の接待相手って、外国の方なの?」 おやじ様は難しい顔をしたまま黙り込んだ。 「お父様?」 いつもと違う雰囲気に、ちょっと不安になる。 余程、気難しい相手なんだろうか? それとも、大口契約を結びたい取引先のお偉いさんかしら? あれこれ思案していると、おやじ様が重い口を開いた。 「美月にとって…大切な人だ」 「は…ぁっ?」 訳が分からず、間抜けな声が漏れてしまう。 あたしにとって、大切な人?まさか! 「お見合い!?」 信じられない!あたしはまだ17歳よ。 現役の女子高生なんだから。 確かに、あたしが通うエスカレーター式の超お嬢さま学校 『聖ニコル女学園』には、お互いの事業の利益の為にとお見合い結婚をする人も沢山いた。 いわゆる政略結婚ってやつ。 でも、そんなの絶対に嫌! 自分の結婚相手は、自分で見つけるんだから。 むっとして黙り込むと、おやじ様が恐る恐る言った。 「いや、見合いじゃなくて…」 「え、違うの?」 ほっとしたのも束の間____________ 「これから会うのは、美月の婚約者で…」 おやじ様が言い終える前に、あたしは叫んだ。 「車を止めて!あたし帰る!」 走行中の車のドアをいきなり開けようとしたあたしを、後ろから羽交い絞めにすると 「落ち着きなさい。危ないから!」 「離してよ!」 後部座席で繰り広げられる乱闘に驚いた、運転手の小山さんが急ブレーキをかけた。 弾みで、サイドガラスにしたたかおでこをぶつける。 「いたーい!」 「申し訳ございません、お嬢様」 小山さんが、あわてて声を掛ける。 「小山君、車を出してくれ」 ひん曲がったネクタイを調えながら、おやじ様が言った。 再び、車が動き出す。 おでこの痛みで、戦意喪失したあたしは、ふて腐れながら窓の外を見た。 何なのよ、もう! 「いきなりこんな話をしてすまなかったな。  とにかく一度会ってみてくれ。  会えばお前だって絶対気に入るはずだから」 あたしは、何も答えず、ただ流れていくビル街を睨みつけるように眺めた。
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