125人が本棚に入れています
本棚に追加
程良くエアコンの効いた車の中、隣に座るおやじ様に尋ねてみる。
「ねえ、お父様。今日の接待相手って、外国の方なの?」
おやじ様は難しい顔をしたまま黙り込んだ。
「お父様?」
いつもと違う雰囲気に、ちょっと不安になる。
余程、気難しい相手なんだろうか?
それとも、大口契約を結びたい取引先のお偉いさんかしら?
あれこれ思案していると、おやじ様が重い口を開いた。
「美月にとって…大切な人だ」
「は…ぁっ?」
訳が分からず、間抜けな声が漏れてしまう。
あたしにとって、大切な人?まさか!
「お見合い!?」
信じられない!あたしはまだ17歳よ。
現役の女子高生なんだから。
確かに、あたしが通うエスカレーター式の超お嬢さま学校
『聖ニコル女学園』には、お互いの事業の利益の為にとお見合い結婚をする人も沢山いた。
いわゆる政略結婚ってやつ。
でも、そんなの絶対に嫌!
自分の結婚相手は、自分で見つけるんだから。
むっとして黙り込むと、おやじ様が恐る恐る言った。
「いや、見合いじゃなくて…」
「え、違うの?」
ほっとしたのも束の間____________
「これから会うのは、美月の婚約者で…」
おやじ様が言い終える前に、あたしは叫んだ。
「車を止めて!あたし帰る!」
走行中の車のドアをいきなり開けようとしたあたしを、後ろから羽交い絞めにすると
「落ち着きなさい。危ないから!」
「離してよ!」
後部座席で繰り広げられる乱闘に驚いた、運転手の小山さんが急ブレーキをかけた。
弾みで、サイドガラスにしたたかおでこをぶつける。
「いたーい!」
「申し訳ございません、お嬢様」
小山さんが、あわてて声を掛ける。
「小山君、車を出してくれ」
ひん曲がったネクタイを調えながら、おやじ様が言った。
再び、車が動き出す。
おでこの痛みで、戦意喪失したあたしは、ふて腐れながら窓の外を見た。
何なのよ、もう!
「いきなりこんな話をしてすまなかったな。
とにかく一度会ってみてくれ。
会えばお前だって絶対気に入るはずだから」
あたしは、何も答えず、ただ流れていくビル街を睨みつけるように眺めた。
最初のコメントを投稿しよう!