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素っ頓狂な声を上げた僕に対し、母はこう説明した。僕の父と母は「マクラ営業」の会社で知り合い、社内結婚をした。父は母以上に優秀な成績を収める社員だったが、自分は常にお客さんにとって最高の枕であるべきだという強い信念から、次第にいつも枕カバーの中に入って過ごすようになった。そうこうする内に人間から枕の中身へと少しずつ父の姿は変わっていき、僕が生まれる頃には完璧な枕へと変貌してしまったというのだ。今となっては人としての意識があるのか外見から判断できないが、母が困ったときには夢の中に現れてアドバイスをくれるし、枕に触れると父の肌と同じ温もりを感じられると母は主張した。
「レムくんも幼稚園入る前までは、しょっちゅうその枕と会話してたんやで。よく『オトン』って言ってたし」
「オトン!?じゃあ、初めて喋った『トン』って布団の意味じゃなかったんだ!?」
「それにレムくん、嫌なことがあっても一晩寝るとスッキリして気分が良くなってたでしょう。あれはね、お父さんの得意技やねん。夢を食べるバクみたいに、レムくんの悪い思い出を吸い取って浄化してくれてたのよ」
母の言葉を聞いて、あの強盗犯が本気で心を改めたと僕は確信した。きっと父は犯人を気絶させた後で「マクラ営業」の特別サービスを施して、犯人の悪い心を綺麗さっぱり吸い取ってくれたに違いない。警察から解放された犯人が、僕や母に復讐しないように。
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