第二章 悪夢の夜

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 耐えられなくて大声が出た瞬間、男が僕にのしかかってきた。男の体重は重くて、ベッドに押し付けられた僕の体は深く沈み込みそうになった。 「静かにしろっつってんだろ!クソガキが!」  そう言って男が手にしたナイフを振り上げた瞬間だった。男の顔めがけて何かが僕の隣から飛び出してきた。 「ブハ!」 その何かの衝撃を顔にくらった男が仰天して手からナイフを落とすと、床に落ちたナイフは部屋の隅へ転がっていった。パニックになった男が身を起こし、僕の体にかかっていた重みがたちまち軽くなる。男は両手でその何かをつかむと強く引っ張り始めた。 「なんだコレ!?」  男がはたき落とそうと必死になっているのは、僕の枕だった。枕はまるで生き物のように男の顔全体にピッタリと貼り付いて、男がどれだけむしり取ろうとしても決して剥がれようとしなかった。視界を遮られた男はバランスを崩して、ベッドから床に倒れ落ちた。 「くう、息!息が!」  少しすると苦しそうな声を上げて、男は床をのたうち回った。枕はカタツムリの触角のようにカバーの四方を伸ばして男の顔全体を覆い尽くし、まるで口から侵入しようとするエイリアンみたいに密着している。僕はベッドにしゃがみ込んだまま、足をバタバタとさせて抵抗する男の姿を呆然と見ていた。男がどれだけ激しくひっかいても、枕は依然として手を休めることはなく、枕カバーに走った何本もの爪の跡を見ていると、物なのに不思議と心が痛くなった。
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