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フガフガともがいていた男の動きが徐々におとなしくなっていき、やがて指一本動かなくなった。信じられない状況に僕は相変わらずボーッとしていたが、枕が男の顔の上で大きく膨らみ始めたのを見た途端、次は自分が狙われると思って素早く身構えた。
「……あれ?何もしてこない?」
恐る恐る顔を上げた僕の前で、枕はただ膨らんでいるだけだった。そしてその表面に模様が浮かび上がったかと思うと、人の目や鼻や口が姿を現し始めた。最初は失敗した福笑いのように顔のパーツがバラバラに浮かんでいたが、目鼻立ちが少しずつ整い始めて、最終的には人の顔の表情になった。枕に浮かんだ人面相は、僕を見つめるとその口を開いた。
“に・げ・ろ”
声は聞こえなかったが、その口の形は確かにそう言っていたのが見えた。
「あ、あ、はい!」
僕はベッドから転げ落ちるように床に着地すると、仰向けに倒れて動かない男のそばを這いずるように駆け抜けて部屋を飛び出した。振り返る勇気もなく一目散に玄関から外に出た僕は、助けを求めて最寄り駅近くの交番へと走った。真夜中でまだ暗い道を一人で走るのは心細かったけど、さっき見た枕の顔を思い浮かべたら不思議と駆ける足に力が入った。
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