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なので、私は静かに隣という特等席を堪能するに決めた。それが賢い選択でしょう。静かに、空気のように存在してお疲れのところを邪魔しない、その代わりに間近でイケメンオーラを感じ取る。ああ、じわじわ来てる感じ。すごいドキドキするし女性ホルモン分泌されてる気がする。あ、スマホしまっちゃうんだ。あまり弄らないタイプなのかな? っていうか指長いなあ……。ネイルしたら映えそう、とか言って軽率に触りたい。まあ、夢のまた夢ですよねー。私はもう、この綺麗な指先を見てるだけで終点まで過ごせそう。なんて充実した時間だろう。ああ、昼ご飯食べてないけどもうお腹いっぱい。
「んっ?!」
しかし突然の衝撃。温もりと、しっかりとした重さが肩に掛かる。私の太ももに滑った手が当たる。接触。今、私、航生くんに接触、している。
痛いくらいばくばく鳴る心臓。うひゃー、と暴れたい気分だけど暴れたら起こしてしまうし、それ以前に緊張して一ミリも動けない。これはもしかしなくとも眠ってしまった……? いつの間に、というのとそれほど疲れてるんだ、というのと。そんなことをしみじみと思いながらこれからどうしよう、どうしたらいいんだろうっていう疑問が頭の中ぐるぐる回ってる。しかも「どうしよう」の主張が強すぎてその答えを考える余裕がない。
とりあえず終点まであと三駅。ストーカーじゃないから航生くんがどこで降りるかなんて知らない。でも、途中二駅は乗り換えがない小さな駅なので降りる可能性は低い。だからきっと三駅間。真剣にどうしようか考える。……よし、決めた。航生くんが少しでも深い眠りについて疲れが取れるように、私は航生くんの全てを優しく受け止めよう。私は今「人をダメにするソファー」なのだと思い込む。その瞬間、身体の組織が全てビーズに変わっていく気がした。そうこうしてるうちに一駅。あと二駅、心を無にして過ごそう……。
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