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「ん……」
とか思ってたらずりっと肩から滑り落ちそうになって反射的にぐっと肩を乗り出してしまう。めちゃくちゃ不審じゃない? でもひゃっ、とか叫ばなかっただけましだと思いたい。流石に起きちゃったかな、っていうか傍から見たら私本当にやばいな、と思いつつそろそろと航生くんを横目で確認しようとするとふわっと肩が軽くなって――。
「おはよ」
小さな挨拶と、ぱっちり開かれた丸い瞳。それがふにゃっとアーチを描いて、それから身体を小さく弾ませて笑う。
「え、ええっ?!」
起きてた?! 私は言葉を失う。だって、こんなの明らかに寝起きじゃない。
「バランスゲーム、終わらせちゃってごめんね。でも面白かった」
笑いながら喋る声はからかうものだけど意地悪く聞こえない。顔の造りがいいからというのもあるだろうけど、きっと表情が無邪気な少年のせいだ。
「いつから起きてたんですか?!」
「ちょっと、ボリューム大きすぎ!」
「あっ、ごめんなさい!」
動揺しすぎて下げるどころかほぼミュート。ぱくぱく口を動かしながらはっと自覚する。今私、航生くんと一対一で喋ってる。まるで、友達と話してるみたいに。今まで見てるだけで全然話し掛けられなかったのに……こんなに近くで見つめ合ってる! 嘘でしょ嘘でしょと思いながらキラキラ輝く瞳を見る。やばい、三秒持たない。近すぎて顔を背けたいとか、なんて贅沢な悩みだろう。
「寝たフリ。ごめんね、つい遊んじゃった」
そう言ってくしゃっと子供みたいな笑みを浮かべる。これが普通のナンパ男子だったら殺意が芽生えるのに航生くんだったら「天使! 許す!」ってなるのは本当にすごい。
「なんで寝たフリなんか……」
「君さ、同じ国際経済学の授業受けてるでしょ? ずっと気になってたんだよね」
航生くんはじっと私の目を見つめて言った。そのキラキラな目が私を捕らえてもう騒ぐことも目を逸らすことも、はいそうです、と返事することもできない。
ずっと……気になってた? 特筆することもない平凡な私のことを?
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