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夢のまにまに
「あーあ、ひさしぶりにやっちゃったなあ」
いつもどおりの風景に、杏子はぽりぽりと頭を掻いた。
あたり一面、白一色である。右も左も天地もわからない。まぶしいばかりの白に囲まれて、杏子はひとりでたたずんでいた。
むくれて、その場に腰をおろす。このふしぎな風景──杏子は便宜上『夢』と呼んでいる──をみるには、条件がある。
ひとつ、近くでだれかが寝ていて、杏子が起きている。
ふたつ、時刻がぞろ目になる。
みっつ、二の瞬間に、寝ているだれかに触れている。
時刻がぞろ目と言うのは、二時二十二分だとか、二十二時二十二分だとか、そういうヤツだ。ちなみにいまのところ、二十四時間制も午前午後制もどちらも採用されているため、『うっかり』は結構な割合で発生する。
そして、この『夢』から覚めるためには、唯一にして最大の謎を解かなければならない。
自分がだれに触れたのか、だ。
いまの杏子には、『夢』に落ちる直前までの記憶がない。場合によっては、数年単位で抜け落ちることがある。まったくの手探りである。からだが触れあったからと言って、相手が知り合いとも限らない。
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