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「さあ、来い……ッ」
口にだして気合いを入れ、杏子は周囲にたえず目を配る。はじめにかたちがさだまったのは、足下だった。
「わあっ?」
足が沈んだ。ほんの数センチだが、それだけで杏子はバランスを崩して尻餅をついた。
てのひらにざらりとした感触がある。
「砂……」
砂場? 砂漠? 砂丘? 砂浜? 選択肢が次々に浮かぶ。いやいや、高校の卒業式の記憶があるのだから、いくらなんでもお砂場はないだろう。砂漠、も、ない気がする。悩んだのは一瞬だったが、眼前に広がった光景にすべて打ち消された。
砂の先に、きらきらとしたエメラルドグリーンの水面がある。照りつける日差し、青い空は雲ひとつない。ただ、水平線ははっきりとは見えず、水彩絵の具をぼかしたように溶けていた。
砂浜だ。これは確定。でも、海とは限らない。湖の可能性も捨てちゃダメだ。用心深く観察を続けて、杏子はてのひらに感じる砂に特徴を見いだした。
砂が白い。地元の黒い砂ではなく、この砂浜の砂は石灰でできているらしい。
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