第五章 涙のわけ

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 リーゼ=フィール。魔法属性は違っても、過去に例のない希少な魔法属性をその身に宿した身近な人間であることに変わりはない。お互いが似たような苦しみを経験している……やはりおれの発言は軽率で、独りよがりなものだった。  「本当に悪かった」 「もうこの話はお終い」 「あの……さ。いつまでこう……してる予定?」 「もう少しだけこうさせて欲しいの。忘れたくないから」  忘れたくないってどういう意味なんだろう。でもどうだっていい、こうやってギュっとされてると不思議と落ち着いてる自分がいるし、ずっとこうしていたいって思う自分もいる。自分の思いとは反対の事を口走ってしまったけど、これがギュっとするって事なのか……いいな、これ。  静まり返った聖堂に、入口正面の大扉が開かれた音が聞こえた。せっかくいい雰囲気なのに、空気を読んでくれ。離れないと……そう思って彼女の身体を剝がそうとした時、思わぬ声が響いた。
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