第五章 涙のわけ

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 泣きながら祈ってる……教会だな。聖女様のお務めってとこだろうけど、その聖女って呼称もリーゼにとっては重荷なんだろうな。それに比べておれは独りよがりな考えばかりで、なんか恥ずかしい。  「気が重そうじゃな。ほれ、こっちにきぃ。体を休めるのも必要ぞ」  薄暗く甘い香りが充満するこの密室で、長い白髪を梳かし終えたルゼッタは立ち上がると、奥の寝台に腰を下ろしてそう言った。透き通った絹を幾重にも身に纏う彼女の身体は幼く、小等部低学年の体つきのそれなのだが――彼女自身、魔力を節約しているといったところか。  「おれはロリコンじゃないし、もう行く」 「レイジよ。時には……押し倒すくらいの度胸を持ち合わせてなければの」 「いきなり何の話だ。時間が惜しい、また来る」  密室の扉を押開き、ルゼッタの店を後にする。店内の甘い香りが鼻について落ち着かない。深く息を吸い込み、静かに呼吸を整えてから彼女が待つ教会へと向かった。
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