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泣きっ面に蜂、とはまさにこのことだ。
吉川麗奈は、大きなため息を一つついて、すっかり氷の溶けたアイスコーヒーをチューと啜った。
誰もいない向かいの席には、コーヒーカップが一つ。
コーヒーが空になってすらいなかった。
朋之は、コーヒーを一口啜って、気まずそうに「オレはもうムリ。別れよう」とだけ言って立ち上がった。
それ以上コーヒーを飲むこともなく店を後にする。
まるで、一刻も早くその場を立ち去りたい、というかのように。
麗奈に何もいう隙も与えなかった。
わずか十分前の出来事である。
「最後ぐらい、金払ってけよ!」
麗奈は朋之の背中にブツブツ呟くのが精一杯だった。
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