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どうやら撮影に使う彫刻が壊れた、というので大騒ぎになっているらしい。 その彫刻は高さ3メートルほどの中々本格的な男の裸像で、美術部渾身の作だったらしいのだが、カメリハも終わり、さあ本番!というその時に、近くにあった資材が倒れ、彫刻を直撃したのだそうだ。 腕から先がぽろんと折れてしまった。 スタジオを襲った衝撃は想像に難くない。 怪我人が出なかったのが不幸中の幸いであったのだが、とにかく彫刻に応急処置をして本日の分の撮影を乗り切ってしまおうと、美術部のスタッフを呼んだり、スケジュールを組み直したり、と総動員がかけられていた、というわけだった。 「彫刻? どんな話なのよ」 どんなドラマのどんな撮影なのかさえ聞かされてないことに愕然とする。 麗奈が聞くと「売れない彫刻家と箱入り娘の純愛ドラマ」とすました顔で答えられた。 ずいぶんとベタなストーリーである。 大変だな……と半ば人ごとのようにぼんやりしていたら、背後から「なに、このサンドイッチ。パンがパサパサなんだけど?」という文句が聞こえてきた。 思わず振り返ってみると、七きゅーがいかにも不機嫌なむっつりした顔で文句を言っている。 その声を聞きつけて、スタッフが慌てて駆け寄っていった。 「すみません! 七瀬さん!! ただいますぐに新しいのを用意しますから。 おい! 吉川。すぐに買ってこい!!」
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