1

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
2ヶ月くらい前だった。偶然部活帰りに下駄箱で会って何の気なしに聞いた。 「あれ、隼じゃん。こんな時間まで何してんの?」 靴を取ろうとしてた隼の手がびくっと震えて、私を振り返った瞳が怯えたように揺れているのが印象的だった。それまでの私の中での、『隼』らしくない表情だった。 隼は典型的なモテ男だった。いつも笑顔で、明るくて、成績優秀、スポーツ万能。サッカーが特に大好きで、体育の授業がサッカーの日はガッツポーズして喜んでいた。けれど何故か部活には入っていなくて、前に何でサッカー部に入らないのかって聞いたら、高校は受験勉強に集中したいから、と真面目な顔で言っていて、明確に将来を見据えていて凄いなぁって思ったのを覚えていた。 「あー……。図書室で勉強しているんだ、最近」 目を逸らして言う隼に私が違和感を感じたのは、私が彼のことをよく見ているから。1年の時からずっと好きだったから。 「……そうなんだ。偶然!一緒にかえろ?」 「おう」 たわいもない会話は上滑りする。私の意識は違う方に行っている。 「隼のおうちってどこらへんだっけ?電車乗るよね?」 駅へ向かう通学路には、部活帰りの生徒がちらほらと見える。今日他の部活メンバーはドーナツ屋さんに寄っていくって話してたっけなぁ、と頭によぎる。私はお母さんに弟のお守りを頼まれたから渋々断ったけれど。 「帰りたくないな……」 あの時、消え入りそうな声をちゃんと拾えることができて心底良かったと思う。隼が独りで苦しむことに比べたら、私の恋愛感情の行き場が無くなることなんて大したことじゃないのだ。隼が求めてるものを与えてあげたい。それが私にできることならば。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!