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「そういえばさ、ごめん。明日はここ来れないわ」 「へ?」 あの日から2ヶ月ほど経ったけれど、隼が 私と一緒に帰らない日はなかった。私は学校がある日が楽しみになって、あの日感じた違和感のことを深く考えてあげられないでいた。 この時気付いてあげられていたら、一歩踏み込む勇気が私にあったら、彼の隣にいたのは私だったんだろうか。今更考えても意味はないけれど、2ヶ月もの間、決まって家に帰らずに時間を潰しているということ。そのことにもっと疑問を持つべきだったと今なら分かる。 「おっけー!何か用事でもあるの?」 努めて気にしていない素ぶりで話した。 「んー、ちょっと。長谷川さんと映画行こうってなってさ」 「え?長谷川さん??」 長谷川さんとは、同じクラスの女子だった。黒くて長い髪がまっすぐのびている、とても、大人しそうな子。 「なんで長谷川さん?仲よかったっけ?」 できるだけなんでもないことのないように、声色に棘を含まないように注意して言った。 「長谷川さん図書委員なんだよ。最近伶奈待ちで閉館までいるじゃん?俺。そんときに喋るようになってさ」 隼が他の女の子の話をしながら笑っている。それだけで私の心は簡単に暗い気持ちに包まれる。 「そうなんだ。何の映画観るの?」 「それがさ、たまたま好きな監督が一緒でさ~~」 隼が話した映画監督の名前さえ私は知らなかった。鬱々としていてどこか倒錯的な、そんな邦画が好きだなんて話も初めて聞いた。隼が帰った後1人で映画のタイトルを検索してみたら、親から虐待されていた子供が14歳で親を殺してしまう話だった。 そんな映画を、隼が図書委員の長谷川さんと観に行く。 どこか私の中では現実離れしていた。その映画も、長谷川さんも、私の中では隼と釣り合わない。輝いている隼。みんなから視線を集める隼。勉強もスポーツもできて、優しくてかっこいい隼。鬱々とした邦画。図書委員なんて明らかにめんどくさい仕事を押し付けられたであろう長谷川さん。印象も薄い大人しい女の子。2ヶ月もの間一緒に過ごしてきた隼。お似合いだと言われる華やかな私。それでも友達としての線を越えられない私。 家に帰りたくないとうつむきがちに言った、隼ーー。
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